jujitsu

 

■私の充実体験

「最大のピンチ、入学式シーズンは待ってくれない」

(これは、前職において商品化責任者だった頃の「最大のピンチ」の体験です。)


 それは、夏の過ぎた頃に、部長に呼ばれた。カメラグループのグループ長とカムコーダー関係の商品化責任者をやっていた頃です。来年に向けて開発検討中のこのカムコーダーの商品化プロジェクト責任者になれとの命令でした。

 この機種は、IC関係をすべて一新するモデル。したがって、それに関わるソフトウエアもプログラム構造から一新する。撮像版のCCDも新規。使い方の新提案やデザインも一新する。その頃は、S社やP社もデザインがイマイチ。ということで、いっちょうやってやるか、という気分になりました。

 各ブロック毎の開発の進捗を見ながら秋が過ぎ。でも、まあ予想はしていたものの新ICの完成度の完了が遅れていく。ICなどのハード系が整わないとソフトウエア開発も進まない、という状況が続きました。しかし、なんとか日程バランス調整や各部門の協力で、そこそこに完成度は上がってきました。

 カムコーダーの商品開発は、開発段階の実験室レベルから、だんだんスタジオ撮影へ、そして室外での評価へ移っていきます。最初は、三脚に載せて固定での評価、実験の繰り返し。だんだん実際の使い方に近い評価に移り、例えば手持ちであらゆるところを撮影して、撮影動作に破綻がなく、自然に撮影されていることを評価していきます。

 時期的に年末になり、冬休みを利用して「フィールドテスト」と称して、代表者が自宅に持ち帰り、お正月のお出かけシーンを撮影して来ることになりました。開発関係者は、年末ぎりぎりまで試作機をまとめ、何台かを撮影してくる方々にフィールドテストを依頼しました。私は、「なんとかこのフィールドテストまで来たぞ」と思っていました。ところが、お正月明けにとんでもないことが待ち受けていました。

【正月明け】

 お正月明け、そのフィールドテストの評価は最悪でした。動作が安定しない、動作が破綻する、などなど。要するに商品として使い物にならないレベル。技術部長から呼ばれ、酷評。緊急の全体会議。ただただ閉塞感。

 カムコーダーの販売シーズンは、春の入学シーズンが一番多く、次に夏の行楽、運動会、などなどとなっています。この機種の発売時期は、春の入学シーズンに合わせ、3月中旬には店頭に並ぶ必要があります。そのためには、少なくとも3月頭には生産を一気に立ち上げなければならない。

 このお正月のフィールドテストにそこそこの性能になって、2月中頃まで3週間周期で性能向上のためのチューニングなど開発サイクルを少なくとも2回くらい回すのが一般的な開発スケジュールでした。この時期に、商品として使い物にならないレベルでは絶対に間に合わないことになります。でも、最大の販売シーズンである入学式シーズンは待ってくれない。

 この正月明けのみなさんの酷評を聞き、さあどうする。今回のレベルを考えると、経験上発売をさらに2ヶ月延期が必要。市場も営業も生産部門も部品メーカーも、「事業計画がずれました」では済まない。もう誰もが、残された日程では、日程どおりの発売は実現不可能と思った。商品化プロジェクトの責任者としての私は、「・・・」。

 でも、何かひらめいたんです。

 日程が間に合わないなら、その分を毎週毎週の週末にフィールドテストをやって、開発検討のサイクルを回して検討サイクルと密度を上げること。毎週の週末フィールドテストを私自身が実行し、それをすぐに評価して改良する。そうすれば出来るんじゃないか。

 商品化責任者の私は、プロジェクトの技術リーダー全員を集め、この計画を説明。なにしろ商品化責任者なので、他部門からやり方にクレームが来ても「やります」で押し通しました。

 私の住んでいるところから自転車で20分くらいのところに「八景島」があります。これには、家族を動員。この週末から小学生の子供たち2人は毎週の週末に八景島へ遊びに行くことになりました。

題して、「八景島大作戦」。これは私だけの命名です。

 毎週月曜日午前に、関係の設計技術者の全員が集まり、撮ってきた実際の画像を見て評価。試作機には工夫がしてあり、画面の下部にカムコーダー内部の動きを数字表示。例えば、映像が異常な動作をしても、その時の数字を見れば、内部でどのような動作の判断ミスをしているか検討の参考になる。参考になるとはいっても、技術検討して実機で検証して、他の回路との動きをさらに検討して実機で検証するということが行われるので、月曜の午後から週末までとんでもない残業が続きました。それを正月明けから2月中旬まで6回以上実施することになります。

 計画では、試作機は金曜日の夕方までに準備の予定ですが、なかなかまとまらない。私の下のリーダーに試作機まとめを依頼。その試作機は夜中にまとまるので、守衛所であずかってもらい、私は土曜日の午前中に守衛所へ取りに行く。そのあと、小学生だった子供たち2人と八景島へフィールドテスト。遊園地の乗り物にいくつも乗って撮影。ジェットコースターは子供が2人なので私は2回乗り、私は目が回って足がガタガタ。あと、透明感の色が出るかの確認は、必ずグラスビールのビールが美味しく写るかを試しました。これは色再現上、重要です。

 1月、2月とも各部門の責任者が、特に営業関係者が私のところに来て「大丈夫かよ?」と心配して様子を聞きに来ました。そりゃそうでしょう。量販店に事前に新機種情報の日程を正確に伝えなくちゃ、ハイシーズンの仕入れに影響してしまいます。私としては、今までの経験上、一番濃い濃度の開発をしている実感がありましたので、「大丈夫、間に合います」と結果は見えてない中でも答えておきました。

 といっても、開発検討は、毎週毎週上手く進んだり、落ち込んだり。しかし、プロジェクトメンバーが100%をはるかに超える能力を発揮してくれて、2月後半にはなんとかそこそこの性能になり、2月末には目標レベルへ到達。ソフトウエアのプログラムのROM版が間に合わず、ロスを出しましたが、3月生産に関してはぎりぎりスタート。

 幸い、3月後半の発売後すぐに国内シェアを20%超え。もっと生産できたらもっと伸びたかもと思いつつ、専門誌の取材や評論家への説明対応のフォローに入っていました。

 商品化を担当していた時期において、この時ほどプロジェクトメンバーと強力な一体感を感じたことはなかったです。

 子供たちは毎週毎週の八景島の遊園地だったのでとっても喜んでいましたが、私としては家族の協力がとてもありがたく感じました。

 後日、新年度の商品開発における社長賞も受賞。賞金で盛大に打ち上げを行いました。

以上